Masukカイトの様子を配慮したマジェスタは少しの間を置き、コホンと小さく咳払いしてから次の説明に移った。
「順序が前後してしまいましたが、この世界の説明を続けましょう。よろしいですか?」
「はい。お願いします」 「テルスの世界情勢はまさに激動の時代を迎えております。それは蒸気機関や内燃機関などの急速な発達とも重なるのですが……まずはセナート帝国について申し上げましょう」マジェスタが地球儀に酷似したテルス儀をふたたび指差す。
セナート帝国と聞いたカイトは「父さんのいる国か」と思いながら、マジェスタの人差し指が指し示す大陸を注視した。「その領地が大陸の東端にまで達したセナート帝国は二年前、我がミズガルズ王国に宣戦布告すると国境の島であるペアホースへと攻め込みますが、ダイキ卿が投降するとあたかも目的がそれであったかのように兵を引き揚げました。現在は和睦が成立し、国交も回復しております」
「二度目はないと言い切れる状態なんでしょうか」すぐさま問いで返したカイトに、及第点を与える教師のような首肯をみせてからマジェスタは答えた。
「断言できないのが現在の情勢です。セナート帝国は今やテルスで最も大きな大陸であるアフラシア大陸の覇権国家となっております。北はツンドラの地、南はヒマアーラヤ山脈にまで達し、西にあっては次々に小国を飲み込み、現在はピャスト共和国、ロムニア王国、オルハン帝国と接する長い西方戦線を形成しています。セナート帝国のシーマ皇帝は大帝とも称され、パスクセナーティカとも呼ばれる大陸の安定と繁栄を築き始めています」
マジェスタが説明したテルスの情勢を、カイトは地球に当てはめて考えてみた。
ロシアと中国にモンゴルやカザフスタンを合わせたよりも大きな領土を持つ国。途方もない大国だとは思ったが、スケールが大きすぎることで、カイトはぼんやりとしたイメージでしか捉えられなかった。「言葉を選ばずに訊きます。ミズガルズ王国とセナート帝国では、国力の差が歴然としているように思うんですが……」
カイトのストレートな感想をマジェスタはすんなり肯定した。
「残念ながら、その直感は合っております。セナート帝国が本気で東征を考えれば……さらに申し上げますと、海洋覇権国家であるブリタンニア連合王国が南方の国々を次々と植民地化しており、その動向も注視しなくてはなりません。さらには、目覚ましい発展を遂げているゴンドワナ大陸の北半分を擁するアメリクス合衆国……ミズガルズ王国を巡る情勢は予断を許さないと申し上げておきます」
カイトは自分の立っている場所が平穏ではないことを、自分でも驚くほどすんなりと受け入れた。
のんびりほのぼのスローライフも、ラッキースケベが連発するハーレム展開も望めないタイプの異世界なんだと、すでに理解して諦観も済んでいた。「現時点で、ミズガルズ王国に対抗策はあるんですか?」
「軍事力の象徴であり実効的な抑止力である筆頭魔道士団、トワゾンドール魔道士団の再建と強化が急務でありましょう。そのために我々はミズガルズとの縁も深い、太聖エルヴァ卿をトワゾンドール魔道士団の顧問として迎え入れました」 「エルヴァ卿、ですか……あの、太聖というのは?」 「平たく言ってしまえば、世界で最強の魔道士に授与される称号です」 「世界最強……」その名前が出るのを見越したかのようなタイミングで、書室のドアをノックする音が響いた。
ノックの音に反応したマジェスタは「素晴らしい頃合いですな」と言いながらドアを開けた。 そこには百九十センチを優に超える長身の男が立っていた。「お待ちしておりました」
マジェスタが長身の男を書室に招き入れる。
「話の途中だったのでは?」
穏やかな表情を浮かべる長身の男がマジェスタに訊くと、マジェスタは小さく首を横に振った。
「ちょうど卿の話題に移ったところでありました。これ以上ない頃合いでございます」
「そうですか。そりゃあよかった」長身の男は力の抜けた自然な笑みを浮かべてみせた。
長く艶のある黒髪に琥珀色の瞳を持ち、整った鼻梁と白い肌が相まって美形ゆえに年齢の掴めない男だった。「カイト閣下、この方が太聖であられるエルヴァ卿です」
マジェスタが今しがた世界最強の称号を持つと説明したばかりのエルヴァを紹介する。
「はじめまして。カイト・アナン、です」
慌てて一礼したカイトは、緊張で喉が締まってしまい名前だけをかろうじて伝えた。
「エルヴァ・マクラーレンだよ。きみが新たな聖人様ってわけだ。若いね」
エルヴァの口調はフランクなもので、カイトが抱いた世界最強のイメージとは掛け離れていた。
「あ、はい。二十歳です」
「お年頃だなあ。ん?」言葉を急に切ったエルヴァが、カイトをじっとまっすぐに見つめる。
「あの、なにか……?」
「きみ、面白いね」 「面白い? ですか?」 「うん。面白い。ちょっと場所変えようか」エルヴァは言うなりマジェスタへと視線を移し「よろしいですか?」と伺いを立てた。
「もちろんでございます。老人の役目は一旦ここまでといたしましょう」
マジェスタが微笑をもって承諾すると、エルヴァはカイトに向けてニカッと笑ってみせた。
「ってわけで、カイト君。ちょっと付いて来てくれる?」
「はいっ」カイトを誘うエルヴァの口調は「軽くお茶でも」といった調子だったが、すぐに応じなければと感じたカイトは慌てて返事した。
エルヴァという男は、その場の空気を掌握する力を持っていた。晴れて夫婦となったカイトとストーリアが、結婚を機に延び延びとなっていた引っ越しを披露宴前日までに済ませた二人の新居へと戻ったのは、6月の太陽がすっかり沈んだ頃合いだった。 サイオン公爵としてサイオン領を拝領しているカイトではあったが、筆頭魔道士の首席魔道士としての職務を優先させ、王宮からほど近い位置にある王都の中でも有力な貴族の所有する屋敷の建ち並ぶエリアが二人の新居として選ばれた。 御三家の中でも王都に最も多くの土地を所有するガンディーニ家の所有していた屋敷を王室が買い取り、改装された屋敷は公爵でもあるカイトが構える屋敷としては最小限の大きさに抑えられた。 カイトの希望を宰相セルシオが聞き入れた結果として選ばれた小振りな屋敷は、ストーリアの希望もあってそこで働く使用人も最小限に抑えられた。 使用人の面談などはストーリアがすべて行い、それがストーリアにとってサイオン公爵夫人としての最初の仕事となった。 主である二人の帰宅を待っていた使用人たちにストーリアが本日の業務終了を告げてから、食堂へと移動したカイトとストーリアは互いにどこか落ち着かなかった。「なにか飲まれますか?」「ああ、そうだね……いや、自分で淹れるよ」「では、わたしは湯浴みしてまいります」「うん……」 食堂に残ったカイトは酔い醒ましのハーブティーを淹れることにした。 何か体を動かしていないと落ち着かない自分を少し情けなくも思ったが、初夜を前にして湯浴みしている妻を悠々と待っているだけの胆力など今の自分にはないとカイトは自認していた。 カイトが食堂でハーブティーを飲んでいると、湯浴みを終えたストーリアがシルクの寝衣で現れた。 頬をかすかに上気させたストーリアが、カイトの目にはやけに艶めかしく映った。「カイト様も湯浴みなさいますか?」「あ、ああ、うん。そうするよ……そうだ、ストーリアにお願いがあるんだけど」「なんでしょうか?」「俺に対しての敬語はもう無しにしない?」 カイトの提案を聞いたストーリアが右手の人差し指を頬にあて、少し迷った顔を作ってみせる。「そうですね。努力してみますが、すぐには難しいです」「そうか。うん、分かった。おいおいだね。じゃあ、湯浴みしてくるよ……あ、もう一つだけお願いがあって……」「なんでしょう?」「これからは寝るときに香水はつけないで欲
激動の聖暦1890年に、青葉の薫りを運ぶ爽やかな風が吹き抜ける6月の15日。 カイト・アナンとストーリア・カストリオタ両人の挙式がレザレクション大聖堂で執り行われた。 6月中の挙式という新郎新婦の希望を尊重した宰相セルシオの配慮により、ミズガルズ王国の筆頭魔道士団の首席魔道士であり王配直系の公爵でもあるカイトの結婚式としては、異例の短い準備と告知の期間による挙式と披露宴となった。 天候に恵まれた日曜日の大聖堂には、王国の英雄として人気を博すカイトの結婚を祝うため多くの人々が朝から詰めかけていた。 当初、カイトは結婚式を家族を中心とした小規模なものに出来ないかと希望を伝えてみたが、それはセルシオによって即座に却下された。「我が国の首席魔道士であり、対外的にも最重要人物である卿の挙式は、国家行事に等しいものです」 セルシオの言葉は真っ当なもので、ストーリアも同様の理解を示したため、カイトは宰相の決定を受け入れざるを得なかった。 カイトの結婚に際しては王家の中で一悶着もあった。 王配であるケンゾーの孫に当たるカイトの結婚相手は、タンドラ王太子の長女であるヴェルデ王女というのが半ば暗黙の了解として、王家全体の意向となっていたのが原因だった。 カイトをテルスへと召喚した術式を構築したヴェルデ本人も、自身がカイトの妻となるのは当然だと認識していた。 女王セルリアンとケンゾーの長子であるタンドラ王太子はカイトに対し、ヴェルデを正妻としてストーリアは公妾、いわゆる側室という形で迎え入れてはどうかと、二人きりでの面談の席を設けて提案をした。 カイトはその席での返答は保留し、ケンゾーとセルリアンにストーリアを本妻とするための協力を申し出た。 ケンゾーはすんなり快諾し、セルリアンも王太子側との関係を憂慮しつつも了承した。 タンドラ王太子も女王の意向とあっては表立っての反対は取れず、カイトがストーリアを本妻として迎え入れる結婚を阻止することを断念した。「あなたはストーリアを妻とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」 大司教からの誓約の問い掛けに答えたカイトとストーリアは、観衆から送られる祝福の声に応えつつ儀装馬車へ乗り込み、披
「えっ……」 目を丸くするストーリアに、カイトがあたふたする自分を隠さずに声を掛ける。「驚くよね、そりゃ。ほんとに急で、ごめん」「はい……そうですね。驚いてしまいました」「だよね……」 カイトは続ける言葉を探した。 帰国する船上で幾度となく言葉を組み立てていたつもりだったが、実際に初めてのプロポーズとなるとシミュレーションした通りには言葉を続けることが出来なかった。 カイトの動揺を察して、先に口を開いたのはストーリアだった。「わたしで、よろしいんですね?」 カイトは強く大きな首肯を返すと、今回の遠征の間に考えていたことをストーリアへ率直に伝えようと決めた。「俺には何があっても帰らなきゃいけない場所が必要なんだって……思ったんだ。それが無いと俺は、いざって時に自分が背負ってる重責とか立場から逃げるっていう選択肢を、頭の片隅にキープし続けちゃうんだろうなって……。ストーリアと築く家庭を、俺の還るべき場所にさせて欲しい……身勝手な申し出なのは分かってる。でも今の俺には、ストーリア以外は考えられなかった」 カイトの飾らない本心から出る言葉を、まっすぐな目で受け留めていたストーリアは一度ゆっくりとまばたきしてから答えた。「わたしは離れませんよ? それでも、よろしいんですか?」「うん、もちろん。俺も離れる気はないよ」「……分かりました。カイト様の還る場所は、わたしがつくります」 快諾の返答を聞いて全身の緊張が一気に解けたカイトを、まっすぐに見つめたストーリアは、「ただし、一つだけ条件があります」 と真剣な表情で言葉を続けた。「条件……なにかな?」 肩をふたたび強張らせるカイトに向けて、ストーリアは真剣な眼差しのまま条件を告げた。「もし、わたしの身に何かあっても、自分と結婚したせいだと御自身を責めないでください。それが条件です」 ストーリアが口にした条件が、思いもしなかったものだったことにカイトは驚きを隠せなかった。「……ごめん。俺と結婚することで、ストーリアの身に危険が及ぶって可能性を、俺は深く考えられてなかった……」 自身の浅慮を詫びるカイトに向けて、ストーリアは微笑みかけた。「万が一、もしもの話です。カイト様はこの国の英雄であり、世界の英雄となられる存在。英雄たる方の妻が何も負うものが無いなんてことはあり得ません。ただ、わた
首席魔道士であるカイトを始めとする筆頭魔道士団トワゾンドール魔道士団に席を置く魔道士四名を乗せた大型汽船は、ほぼ予定通りの就航を終え、五月二日の昼過ぎにミズガルズ王国の王都プログレの港に錨を下ろした。 ベンガラから先行して出航した商船に連絡を頼んでいたこともあり、プログレの港にはノンノが出迎えに来ていた。ノンノから少し離れた位置には控えめに立つストーリアの姿もあった。 船から降りて約三ヶ月ぶりとなる本国の土を踏んだカイトのもとに、快活な笑みを浮かべたノンノが息を弾ませて駆け寄った。「お疲れ様! 長かったねえ」 ノンノはカイトへ声を掛けるやすぐにピリカへと視線を移した。「おかえりっ! カイト卿とは上手くいった?」 ノンノの軽い調子に合わせて、ピリカが大袈裟にがっかりとした表情を作ってみせる。「ううん。それが、残念ながら戦果なし」「ええー、三ヶ月も一緒だったのにぃ?」 演技口調で驚いてみせるノンノに、アルテッツァが微笑みかける。「変わらず元気そうで、安心したよ」「それは、こっちのセリフでしょ。疲れてると思って大袈裟な出迎えは却下しといたんだから」 ノンノが歯を見せる笑顔をみせながら答えると、アルテッツァが配慮への感謝を口にした。「それは、ありがたいな。確かに、思いのほか長期の任務になったからね。さすがに、ゆっくりしたいのが本心だよ」「でしょ。さしものアルテッツァ卿でもお疲れだよね。サクッと陛下への報告済ませちゃって、ゆっくりするといいよ」「ありがとう。そうさせてもらうよ」 ノンノとアルテッツァが交わす気心のしれた会話を横目に、カイトが少し後方で遠慮がちに立つストーリアへ歩み寄ると、ストーリアは深々と頭を下げた。「長期にわたるお務め、お疲れ様でございました」「うん。思ったより長くなっちゃったよ、ごめん。ただいま」 カイトの言葉に顔を上げたストーリアが、微かに潤ませた赤褐色の瞳で帰還した主を見つめる。 色素の薄い肌を際立たせるように浮かぶそばかすが愛らしいとカイトはあらためて思った。「屋敷に戻ったら、その、相談があるんだ。お土産もその時に。もうちょっとだけ待っててもらえるかな」「かしこまりました。お待ちしております」 カイトら帰還した筆頭魔道士団の四名を乗せた王室所有の儀装馬車は、衆目を集めながらも緩やかな速度で王宮へと向か
四月二十五日。天候に恵まれた金曜日の昼前。 前日の送別会での盛り上がりを微かに匂わす魔道士たちが、出航の準備を済ませた二隻の汽船が待つ河川港に集まった。 ゲルマニア帝国のアイギス魔道士団に席を置くカレラとクワトロ、及びガリア共和国のシャノワール魔道士団に席を置くファセルとルネボネの四名は、各々の本国へ戻るために一旦ウァティカヌス聖皇国へと向かう汽船に同乗することが先に決まっており、その日程に合わせてカイトらトワゾンドール魔道士団の四名にはミズガルズ王国の王都プログレへと向かう汽船が手配されていた。 統治領を治めるブリタンニア連合王国の筆頭魔道士団である、メーソンリー魔道士団に席を置く新たな駐屯指揮官が赴任するまでの期間はベンガラに留まることとなったアクーラとエランは、共に連合側の部隊を組んだ魔道士たちを見送る形となった。「また会える日を楽しみにしています」 朗らかな笑みを浮かべながら右手を差し出したカレラと、笑顔で応じたカイトが握手を交わす。「はい。出来るなら、戦場ではない平和な機会で」 他国の、特に地理的に離れた国家間の筆頭魔道士団に属する魔道士同士が戦場以外で会うことは、まずあり得ないと知りながらも素直な希望を口にするカイトへ、カレラは笑顔で応えてみせた。「何ともカイト卿らしいですね。そうですね……そうなることを、あたしも願うとしましょう」 カレラが賛意を表したタイミングで二人へ歩み寄ったファセルが、しなやかな所作で右手をカイトの前へ差し出した。「次に会うときまで、更に男を磨いておくのよ」 ファセルの意外な言葉につい破顔したカイトが握手に応じる。「はい。俺なりに努力してみます」「ダメよ。それは出来ない男の返答ってものよ。磨いておきます、ときっちり断言しなくちゃ」「分かりました。磨いておきます」「よろしい」 満足気に頷いたファセルがやわらかな笑みをカイトへ向ける。 別れの挨拶が一段落したタイミングで、機会を見計らっていたアクーラが背後からカイトに抱きついた。「さみしくなりますねえ」 カイトの耳元を吐息で撫でるようにささやくアクーラの、背中で感じる豊かな柔らかさにどぎまぎしながらもカイトは率直な言葉を返した。「はい。俺もさみしいです」 西方列強の魔道士として各々が重責を担うエース格であるカレラ、ファセル、そしてアクーラは
アクーラが勝者となった模擬戦を見届けたラブリュス魔道士団側の反応は、連合側の喝采を引き立てるかのように対照的で静かなものだった。 ヴァイオレットだけが敗者となったアリアのもとへと駆け寄ったが、そのヴァイオレットも寄り添うだけでアリアへ声を掛けることはなかった。 無言で歩き始めたティーダとダイキを先頭にして、ラブリュス魔道士団は撤退を始めた。 ぞろぞろと河川港へと向かって歩を進める漆黒の軍服の列にアリアは無言で加わった。 この場を去るダイキを見送る形となったアルテッツァもまた無言だった。 胸中で浮かんでは消える言葉たちを喉の奥で堰き止めるアルテッツァと視線を合わせたダイキが、「アルテッツァ卿!」 と大声で呼び掛ける。 唐突な呼び掛けに驚くアルテッツァに対し、撤退の足を止めたダイキは一度大きく頭を下げると、離れたアルテッツァへ届くよう大声を張った。「こんなこと言える立場じゃないってことは重々承知の上で、敢えて言う! カイトを頼みます!」 今後のキーパーソンとも成り得る「裏切りの聖魔道士」が発した意外な言葉に、この世界でも指折りの魔道士たちが疑問の視線を向ける中でただ一人、首肯を返したアルテッツァは微苦笑を浮かべていた。「元より承知!」 アルテッツァの大きな声での返答を聞いたダイキは右手を挙げて応じると、もう一度大きく頭を下げてから撤退の列へと戻った。 ラブリュス魔道士団が去った広場に、それまで建物に籠もっていた街の住民たちがおそるおそる様子をうかがいに出てくる。 アクーラにポンっと背中を押されたクラリティは、広場の中央にある噴水のもとまでゆっくり歩を進めると、一様に不安を浮かべる住民たちに向かって宣言した。「ご安心ください! セナート帝国は撤退しました! ここに集っている世界屈指の魔道士たちはヒンドゥスターンの味方です!」 クラリティが高らかに宣言すると、住民たちが一斉にわっと歓声を上げた。 ベンガラの役人たちは吉報を伝えるために街中を走り回り、カンカンカンと短い間隔で鳴っていた警鐘に代わって長い余韻を持つ教会の鐘が平時の再来を告げた。 カイトら十名からなる連合サイドの魔道士たちは、一旦ベンガラに滞在することを決めると役場ではなく宿へと移動した。 ヒンドゥスターン王国内に構築されたブリタンニア連合王国の情報網によって、即日ヒンド