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第14話 世界最強

Auteur: 青砥尭杜
last update Dernière mise à jour: 2025-02-03 20:53:10

 カイトの様子を配慮したマジェスタは少しの間を置き、コホンと小さく咳払いしてから次の説明に移った。

「順序が前後してしまいましたが、この世界の説明を続けましょう。よろしいですか?」

「はい。お願いします」

「テルスの世界情勢はまさに激動の時代を迎えております。それは蒸気機関や内燃機関などの急速な発達とも重なるのですが……まずはセナート帝国について申し上げましょう」

 マジェスタが地球儀に酷似したテルス儀をふたたび指差す。

 セナート帝国と聞いたカイトは「父さんのいる国か」と思いながら、マジェスタの人差し指が指し示す大陸を注視した。

「その領地が大陸の東端にまで達したセナート帝国は二年前、我がミズガルズ王国に宣戦布告すると国境の島であるペアホースへと攻め込みますが、ダイキ卿が投降するとあたかも目的がそれであったかのように兵を引き揚げました。現在は和睦が成立し、国交も回復しております」

「二度目はないと言い切れる状態なんでしょうか」

 すぐさま問いで返したカイトに、及第点を与える教師のような首肯をみせてからマジェスタは答えた。

「断言できないのが現在の情勢です。セナート帝国は今やテルスで最も大きな大陸であるアフラシア大陸の覇権国家となっております。北はツンドラの地、南はヒマアーラヤ山脈にまで達し、西にあっては次々に小国を飲み込み、現在はピャスト共和国、ロムニア王国、オルハン帝国と接する長い西方戦線を形成しています。セナート帝国のシーマ皇帝は大帝とも称され、パスクセナーティカとも呼ばれる大陸の安定と繁栄を築き始めています」

 マジェスタが説明したテルスの情勢を、カイトは地球に当てはめて考えてみた。

 ロシアと中国にモンゴルやカザフスタンを合わせたよりも大きな領土を持つ国。途方もない大国だとは思ったが、スケールが大きすぎることで、カイトはぼんやりとしたイメージでしか捉えられなかった。

「言葉を選ばずに訊きます。ミズガルズ王国とセナート帝国では、国力の差が歴然としているように思うんですが……」

 カイトのストレートな感想をマジェスタはすんなり肯定した。

「残念ながら、その直感は合っております。セナート帝国が本気で東征を考えれば……さらに申し上げますと、海洋覇権国家であるブリタンニア連合王国が南方の国々を次々と植民地化しており、その動向も注視しなくてはなりません。さらには、目覚ましい発展を遂げているゴンドワナ大陸の北半分を擁するアメリクス合衆国……ミズガルズ王国を巡る情勢は予断を許さないと申し上げておきます」

 カイトは自分の立っている場所が平穏ではないことを、自分でも驚くほどすんなりと受け入れた。

 のんびりほのぼのスローライフも、ラッキースケベが連発するハーレム展開も望めないタイプの異世界なんだと、すでに理解して諦観も済んでいた。

「現時点で、ミズガルズ王国に対抗策はあるんですか?」

「軍事力の象徴であり実効的な抑止力である筆頭魔道士団、トワゾンドール魔道士団の再建と強化が急務でありましょう。そのために我々はミズガルズとの縁も深い、太聖エルヴァ卿をトワゾンドール魔道士団の顧問として迎え入れました」

「エルヴァ卿、ですか……あの、太聖というのは?」

「平たく言ってしまえば、世界で最強の魔道士に授与される称号です」

「世界最強……」

 その名前が出るのを見越したかのようなタイミングで、書室のドアをノックする音が響いた。

 ノックの音に反応したマジェスタは「素晴らしい頃合いですな」と言いながらドアを開けた。

 そこには百九十センチを優に超える長身の男が立っていた。

「お待ちしておりました」

 マジェスタが長身の男を書室に招き入れる。

「話の途中だったのでは?」

 穏やかな表情を浮かべる長身の男がマジェスタに訊くと、マジェスタは小さく首を横に振った。

「ちょうど卿の話題に移ったところでありました。これ以上ない頃合いでございます」

「そうですか。そりゃあよかった」

 長身の男は力の抜けた自然な笑みを浮かべてみせた。

 長く艶のある黒髪に琥珀色の瞳を持ち、整った鼻梁と白い肌が相まって美形ゆえに年齢の掴めない男だった。

「カイト閣下、この方が太聖であられるエルヴァ卿です」

 マジェスタが今しがた世界最強の称号を持つと説明したばかりのエルヴァを紹介する。

「はじめまして。カイト・アナン、です」

 慌てて一礼したカイトは、緊張で喉が締まってしまい名前だけをかろうじて伝えた。

「エルヴァ・マクラーレンだよ。きみが新たな聖人様ってわけだ。若いね」

 エルヴァの口調はフランクなもので、カイトが抱いた世界最強のイメージとは掛け離れていた。

「あ、はい。二十歳です」

「お年頃だなあ。ん?」

 言葉を急に切ったエルヴァが、カイトをじっとまっすぐに見つめる。

「あの、なにか……?」

「きみ、面白いね」

「面白い? ですか?」

「うん。面白い。ちょっと場所変えようか」

 エルヴァは言うなりマジェスタへと視線を移し「よろしいですか?」と伺いを立てた。

「もちろんでございます。老人の役目は一旦ここまでといたしましょう」

 マジェスタが微笑をもって承諾すると、エルヴァはカイトに向けてニカッと笑ってみせた。

「ってわけで、カイト君。ちょっと付いて来てくれる?」

「はいっ」

 カイトを誘うエルヴァの口調は「軽くお茶でも」といった調子だったが、すぐに応じなければと感じたカイトは慌てて返事した。

 エルヴァという男は、その場の空気を掌握する力を持っていた。

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